Scenario Sample 03

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ティル「………」

昔、祖父母に読んで貰った本には、世界には光の入らない程生い茂った『黒い森』があり、そこには精霊や妖精が住んでいる、とあった。

先ほど思った通り、これがそうなんだろうか、と考えてしまう。
とても、深い森だ。一体どのくらいの広さがあるんだろう。

知らない植物が沢山生えている。
僕達はそれらを興味深く眺めて、少しずつ採取する。

ロッサ「随分肥えた土壌だな」

ティル「そうだね。昨日から一転して、本当に嘘みたいだ」

ロッサ「昨日は水浸し、今日は葉っぱまみれ」

ティル「虫刺されに注意だねえ」

ロッサ「あれ、そういえば、虫の類いを見ないな」

ティル「………そうだな………」

鳥は沢山いるのに、昆虫がいない。
この森の鳥は、木の実しか食べないのだろうか?

僕は、つま先でその辺の落ち葉や石をひっくり返してみた。

気温は、丁度秋くらいだろう。
冬ごもりを始めるような昆虫は、葉の裏などに集団で張り付いているものだが………。


………いない。


枝を眺めてみても、蜘蛛の巣さえ見当たらない。

ティル「都市の海は、普通の海じゃ無かったけど、森もそうみたいだねえ………」

ロッサ「ここにいると、普通が何か分からなくなるな」

ティル「はは、同感」

ロッサが時折コンパスを確認して、メモを付けている。
僕は、辺りの樹に赤い紐を括り付けた。こうする事で、帰り道が分かるという寸法だ。

尤も、引き返した時に、同じ道を辿れる保証はない気もするが。

ティル「迷子の時って、こんな心細い感じだったかなあ」

ロッサ「………心細くなったの?」

ティル「うーん………。どうも、この薄暗さは苦手だな」

ロッサ「あー………」

ロッサは、空を仰いだ。
背の高い木々が、日の光を追い求めて、競い合うように繁っている。

お陰で日の光が地面まで届かない。

ロッサ「折角だから、少し休憩にするか?」

ティル「そうだな。小一時間くらい歩いたし」


僕達は、大きな石の上に腰を下ろした。
所々苔が産している。一晩で様変わりしているというのに、随分と年代を感じさせる。

ティル「シノブゴケだな」

ロッサ「じめじめしてるかと思ったら、案外過ごしやすいっていうか」

ティル「うん。余り湿度は高くないね」

バッグの中から、紅茶が入った水筒と、クッキーを取り出す。
ロッサとは、こういう原始的な雰囲気のティータイムを、何度も過ごしてきた。

………ただ単に、僕もロッサもお茶とお菓子が好きなだけなんだが。

補給代わりに、場所を問わずお茶を楽しんでいるわけだ。

ロッサ「あ、美味い」

ティル「ジンジャー入りのを頼んでみたよ」

ロッサ「イースめ、また腕を上げたな」

ティル「なんで君が悔しそうなの」

ロッサ「えー? 俺だって料理出来るもん」

ティル「そうだねえ」

ロッサ「って、何でそんな適当な返事なの!」

ティル「イースの料理の方が美味しいから」

ロッサ「ぐ………」

ロッサは片手で拳を握って、悔しそうに俯いた。
演技かと思ったが、そうではないようだ。

ティル「………でも、助かってるよ。
イースに出来ない調理が出来るから」

ロッサ「その辺にある物摘んで、料理するって?」

ティル「そうそう、サバイバルに強いね」

ロッサ「ったく………」

ロッサは口を尖らせながら、頭を掻いた。

ティル「―――全く、大きな子供だな、君は」

仕方ないので、拗ねたロッサの頭を軽く撫でてやったら、照れくさそうに視線を逸らされた。