Scenario Sample 01

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ティル「………あれ? 僕は………」

ロッサ「おはよ、ティル。平気?」

ティル「えっと………君は誰だっけ………」

ロッサ「センセー、未だ寝てんの?
眼鏡落とした訳じゃねーよなー?
結構それ傷つくよ………」

ティル「ふふ、あはは」

ロッサ「笑ってるし………。
もー。下りるっていうから下ろしたら、看板抱きしめて持って帰ろうとするし!」

ロッサ「なんかよく解んねーカエルの置物に挨拶するし!
あんまり動かないから、イースには先に帰って貰ったんだぞ」

ロッサ「ティル、もう酒飲むなよっ!?」

ティル「何だかよく解らないけど、連れ帰ってくれてありがとぉ」

ロッサ「………。そりゃ、放っておけるわけないじゃん」

ティル「見ず知らずの僕に親切にしてくれて………」

ロッサ「ティ――ル―――?」

ティル「………ん?」

ロッサ「………。ああ―――っ! んもー!
ティルはズルイ―――!!!」

ティル「あはは、どうしたんだい急に」

ロッサ「どうしたもこうしたも………」

ティル「僕の研究室にも、君みたいな人がいてね………」

ロッサ「………」

ティル「僕のことが好きだっていうんだ。可笑しいだろ?」

ロッサ「………」

ロッサ「………可笑しいんだ?」

ティル「そうだねえ………。背も高いし、見目も良いし、明るくて元気で。
僕を相手にすることも無いと思うんだけど」

ロッサ「へえ………」

ティル「結構女の子から好かれてるって聞くし………」

ロッサ「……や、そんなこと無いだろ」

ティル「同じ学年の子達が言ってたんだ。もう随分前の事だけど………」

ロッサ(あいつら………)

ティル「だから、不思議だなあと思ってるんだよ」

ロッサ「………。どうしてだと、思う………?」

ティル「………。都合がいいんじゃないかな………」

ロッサ「………」

ティル「それ以外に考えられない………」

ロッサ「………そっかあ」

ロッサ「………ティル。
ティルは…そいつのこと、ほんのちょっとでも………」

ティル「………すう………」

ロッサ「………。センセーは、ズルイな」

ロッサ「なあティル。都合が良いの一言で片付けられる俺って何?」

ロッサ「言葉で伝えても、態度で示そうとしても解んねえなら、後他にどうすればいいんだよ………」

ロッサ「教えてよ。センセー………」

気がつくと、僕は僕の部屋のベッドにいた。

霞がかった視界と、思考で、一体何が起こったのか考える。
そうか、僕はお酒を飲んだのか。
そして、あっという間に潰れたのか。

アルコールにすり替えられたという記憶がないので、気分良くあの場にいたに違いない。
きっと、キャプテン・ジャックが好かれるのは、居心地の良い場所を作れるからだろう。

ロッサ「―――あ、気がついた? ティル」

ティル「ロッサ………君、居てくれたんだ」

ロッサ「酔っ払った先生が深夜徘徊しないように、ちゃんと見張っておかねーとな」

ティル「なんだい、それ。まるで僕が夢遊病者みたいだな」

ロッサ「笑ってるけど、ここまで連れてくるの、大変だったんだからな。
水飲める? 持ってくるからちょっと待ってて」

僕は体を起こすと、部屋から出て行くロッサの背中を見つめた。
ロッサは僕の視線に気づくと、首だけで僅かに振り返り、小さく目を細めた。

―――黙っていれば、随分と見栄えするというのにな。

………余計なお世話かもしれないが。

ロッサ「………何? じーっと見て」

ティル「………いや?」

ロッサ「センセー、未だ酔ってるね?」

ティル「酔ってないよ」

酔ってるよ、とロッサが視線を外しながら僕に水の入ったグラスを渡す。
静かに飲みながら、僕はロッサの顔を眺め続けた。

ロッサ「あのさあ………」

ティル「なんだい」

ロッサ「そんな顔で見ないで欲しいんだけど………」

ティル「そんな顔で悪かったな。
僕の顔は変わったりしないだろうし」

ロッサ「違ーって。そうじゃなくて………。
そういう、物欲しそうな顔しないでくれって事」

物欲しそう? 僕が?
思わず僕は自分の頬に掌を当てた。アルコールの所為か、随分と熱を帯びている。

先ほどから視界の端が妙に眩しく感じるのは、僕の目が潤んでいる所為か。
だったら、ロッサから見れば僕がそういう態度を取っているように見えるかもしれない。

実際の所どうなのだろう。
頭がふわふわと揺れる所為で、まともに思考できない。

これはあの時と同じか。ロッサと何となく関係を持ってしまった時と。
状況は変わらないが、僕達は何か変わったのだろうか。

観念したように溜息を吐いて、ロッサが僕のベッドに座った。
僕は相変わらず彼の考えている事が分からない。

それは、分かろうとしていないだけなのだろうか。
人の心とは単純明快な仮面を被っているが、蓋を開けてみれば難解で、僕なんか簡単にお手上げ状態だ。

判別しようといくら顕微鏡を覗き込み、数式を紐解いたとしても、何一つ分析できない。

ロッサ=クロムウェルという人間が、いくら僕の隣で、誰よりも時間を共有していたとしても、僕には。

ティル「―――琥珀」

ロッサ「………え?」

ティル「………に似てるね、君の髪の色は」

指先から零れるアンバーに、僕は目を細めた。
指通りの良い髪だ。しなやかで、細くて、真っ直ぐで。

ロッサ「何だよ、あれだけ拾ってきたのにまだ足りないの?
センセーの部屋の引き出し、琥珀だけで縁一杯埋まるだろ」

笑いながらロッサは僕の手首を掴んで、もう片方を腰に回し、ゆっくり抱き寄せた。
こういう時、妙に丁寧で居心地がいいやら、悪いやら………。

ロッサ「足りないならいくらでも拾ってきますよ。
ティルの欲しい物なら、なんでも」

ティル「君は僕が想定する以上の物を拾ってくるからなあ………。
僕の研究には十分過ぎる」

ロッサ「………じゃあ、今日は俺が頼んでも良いかな」

ティル「ああ。いいよ」

頬に指を添えられて、音を立てて口付けられる。
目を伏せる間もなかったのでロッサの顔を眺めていたら、名残惜しそうに繰り返された。

ロッサ「ここで。出来る? ティル」

舌先で下唇の端から端までを舐められ、意味ありげに吸われた。
僕の肩が小さく震える。

暈けて焦点の合わない視界と思考とは裏腹に、僕の『本能』はその意味を正確に読み取る。
普段の生活では、一体どこに潜んでいるか分からない生き物のようなやつ。

寝室のシーツの隙間に、枕の裏側に潜むそれは、僕を意のままに操る。
僕はロッサの胸元に耳を寄せ、彼の心音を聞いた。

緊張しているのか、興奮しているのか、あるいはその両方なのか。
鼓動は早く、ロッサの体は熱かった。僕はそのまま、ロッサ自身を衣服の上から握る。

ロッサ「―――っ………」

指先で形を辿るように擦ると、頭上で息を飲む音が聞こえた。
手の中が、とても熱い。

ロッサは僕の顎を取ると、ゆっくりと上を向かせた。
ロッサの舌先が僕の歯列を割り、舌を絡め取る。

ティル「ん、は………ふ、ぁ」

お互いの舌と、熱の籠もった吐息を交わらせながら、僕は指先でロッサの衣服を緩める。
同じようにロッサも僕のシャツに手をかけた。